中国の汚染タンパク質輸出問題(ちゅうごくのおせんタンパクしつゆしゅつもんだい)では、2007年3月の大規模なペットフードのリコールにより認識されるようになった中国食品における問題について説明する。
リコールの波紋は2007年のペットフード大量リコール事件の推移を早め、ついに人間の食品の供給にも影響が及んだ。北米、ヨーロッパ、南アフリカのリコールはペットの腎不全が報告されたことにより行われた。最初のリコールはある中国の会社で製造された小麦グルテン入りのペットフードをペットが食べたところ問題が起こったため行われた。翌週、汚染された小麦グルテンを含むペットフードを販売していた数社もリコールを始めた。最初のリコールから1ヵ月後、米国で中国の別の会社が製造した汚染されたコメタンパク質によるペットの腎不全が確認され、南アフリカではトウモロコシグルテンによる腎不全が問題になっていた。
中国政府の対応は遅かった。政府職員、製造者は汚染されたタンパク質が中国産であることすら否定し、数週間にわたり他国の食品安全の調査員が入国することを拒否した[1][2]。しかし、ついに中国政府は汚染を認め、2つのタンパク質製造業者の違法性を確認し、経営者を逮捕した。しかし、中国政府は汚染がペットフードだけでなく人間の食品にも及んでいるのではないかという憶測は否定し続けている。
最初のそして最も簡単に見つかったタンパク質内の汚染物質はメラミンだった。しかし、メラミンは動物や人間にとって特に危険であるとは考えられていない。そのため調査員はシアヌル酸を含め他の汚染物質がないかどうか調査を続けた。現在の調査ではメラミンとシアヌル酸の混合物が腎不全の原因ではないかと注目されている。シアヌル酸は中国産の粗悪品に単独でまた広く利用されていると予想されており、ペットと人間の健康に影響を及ぼすのではないかと懸念されている[3]。
小麦グルテンと濃縮コメタンパク質は小麦粉の中に原材料として加えられており、それらが分離されたものと比べて安価なものとなっている。メラミンとシアヌル酸は小麦粉の見かけのタンパク質含有量を増やし、濃縮植物性タンパク質の含有量検査を通過するために不正に加えられたと考えられている[4]。
メラミン入りの中国産の粗悪品の噂は世界的に広がり[5]、人間の食品の供給に対しても懸念された。4月27日、アメリカ食品医薬品局(FDA)はすべての中国産植物性タンパク質(小麦グルテン、コメグルテン、コメタンパク質、濃縮コメタンパク質、トウモロコシグルテン、ひきわりトウモロコシグルテン、トウモロコシ副産物、大豆タンパク質、大豆グルテン、アミノ酸及びタンパク加水分解物を含むタンパク質、リョクトウタンパク質)を無検査で市場から抑留した[6]。5月1日、FDAと米国農務省 (USDA) の職員は米国に住む250~300万の人々が汚染された中国産タンパク質を飼料に使った鶏肉を消費したことを明らかにした[7]。
ペットフード会社は既に自主規制していたが、話が広がってしまったため、政府による更なる規制を要求する声もあがった。4月12日までに米国上院はこの問題に関する公聴会を開催した[8]。ペットフード業界は打撃を受け、メニュー・フーズ社はリコールの影響でおよそ3000万ドルの損失を計上した。
5月7日、米国の食品安全の関係者はペットフードで問題になったメラミンやメラミン化合物を含む飼料を与えた豚肉や鶏肉の消費による人間の健康へのリスクは非常に少ないと回答した[9]。
汚染された植物性タンパク質は2006年から2007年の初頭にかけて中国から輸入され、ペットフードに利用されていた。汚染源とどのようにして汚染が病気を引き起こしたのかは現在調査中である[10][11]。
最初のリコールは2007年3月16日の金曜日にメニュー・フーズ社によって行われ、米国のキャットフードとドッグフードがリコールされた[12]。3月30日までに米国は中国からの小麦グルテンの輸入を禁止した。中国政府は4月4日、北米で起こった食中毒との関係を一切否定し、汚染製品を製造した疑いのある生産施設の検査を拒否した[2]。
しかし、4月6日、中国政府はAP通信に対し小麦グルテンの生産者を調査すると伝え、4月23日、中国はFDAの職員の入国を許可した[13]。4月25日、中国当局は関連工場の閉鎖や破壊と経営者の拘留を始めた[14]。翌日、中国外交部は食品生産におけるメラミンの使用を禁止し、ペットの死亡の原因となると議論されているメラミンを含む製品を除去したと発表した。また、中国は米国の調査員がペットの死亡の「本当の原因」を見つけることに協力すると誓約した[15]。
4月24日、FDAの職員は米国内で人間が消費した家畜の体内でメラミンが初めて検出されたと発表した[16]。
[編集] メラミン汚染源の解明
メラミンを含んだペットフードの材料はすべて中国から輸入されており、調査員は中国での取調べに注目した[17][18][19][20]。また、中国から輸入した汚染された原材料を使っていたペットフードの製造者はペットフード業界に精通しておらず、承認も得ていないという問題も浮上してきた[21][22][23][24][25][26]。また、それとは別の中国のメラミン粗悪品の汚染ルートが浮上してきた。メラミンは米国のオハイオ州やコロラド州の養殖業者に魚や家畜の飼料の結合剤として利用するために送られていた。これによる病気はまだ報告されていない[27][28]。
[編集] 中国におけるメラミンの製造と利用
メラミンは普通尿素から作られる。触媒を通じて気体を得る方法と、水溶性であることを利用して高圧力によって液体を得る方法がある。メラミンはホルムアルデヒドと化合され、メラミン樹脂や非常に耐久性のある熱硬化性樹脂、メラミンフォーム、ポリマーが作られる。最終的には調理台、布地、接着剤、難燃剤などが作られ、稀にメラミン-ホルムアルデヒド樹脂は接着剤[29]や布地プリント[30]のような非食品用途でグルテンに加えられる。
メラミンはサイロマジンなどの農薬の副産物でもある[31]。農務省の食品安全検査局 (FSIS) は化学研究所ガイドブックの中で食品安全検査局自身も利用する肉類や卵の安全を確保し正確なラベル付けを行うために使用する検査方法を含む動物の細胞内のサイロマジンとメラミンを検出する方法を公開している[32][33]。1999年、米国環境保護庁 (EPA) は、連邦官報内でサイロマジン残留物に関する規則を提示し、メラミンを除去し、サイロマジンのメタボロームがもはや問題とならないレベルまで除去する方法を提示した[34]。
中国ではメラミンの製造に石炭も利用すると報告されている[5]。その生産過程で「メラミンくず」と呼ばれるメラミンの純度の低いものも作られ、メラミンが化学工場や肥料工場で生産される際に廃棄物として生まれ、低価で売られるといわれている[35]。ニューヨーク・タイムズで石炭からメラミンを作る会社として報道された山東明水大化集団は、尿素とメラミンを販売しているが、メラミン樹脂は販売していないといわれている[36] 。中国のメラミン生産量はここのところ急激に増えており、2006年には深刻な生産過剰に陥っているといわれている[37]。アメリカ地質調査所の2004年年鑑の世界の窒素生産量調査によると、中国当局は石炭気化技術を使ったアンモニアや尿素の生産工場の建設を続けると述べたと報告されている[38]。
メラミンを合成する際には大量のアンモニアを排出するため、メラミンの生産はしばしばアンモニアをフィードストックとして利用しながら尿素の生産を同時に行う。メラミンの結晶化と洗浄にはかなりの量の、そしてそのままでは環境に有害な排水が生じる。排水は単純な処理によって凝縮し、もとの重量の1.5%~5%の重さの固体となる。固体はおよそ70%のメラミンと23%のオキシトリアジン(アメリン、アメライド、シアヌル酸)と0.7%のポリコンデンセート(メレム、メラム、メロン)を含む[39]。
[編集] 中国企業による意図的な汚染の容疑
メラミンの製造とメラミンを利用した化学反応過程は小麦グルテンなどの製造者や製造過程と完全に無関係である。4月9日、FDAは食品は意図的に汚染されていた「明確な可能性」があったと述べた[40]。リチャード・J・ダービン上院議員は調査員はメラミンが製品の価値を決定するタンパク質含有量検査を騙す為に加えられていたのではないかという疑いを持っていると述べた[41]。あるタンパク質含有量の測定検査ではかなりの量の窒素を検出し、サンプル内のタンパク質は窒素含有量に大きく寄与しているという仮説が唱えられた。メラミンは非常に高い割合の窒素を含んでいる[42]。中国の動物科学の教授Liu Laitingによると、メラミンは普通の検査では検出することが難しいという[13]。
米国がメラミン汚染グルテンを生産したと信じている江蘇省徐州市の農産物関連製品の会社である徐州安営生物技術開発有限公司は我々は無実でありきちんと調査に協力していると主張し続けている。徐州安営の経営者は会社が問題の製品を輸出したことを否定し、彼らは他の誰がその製品を輸出したのか調査していると語った[43]。彼らは中国の法律に言及し、輸出された小麦グルテンは試験を経ており、また彼らは単なる地方の工場の労働者であるに過ぎないと主張している[44]。しかし徐州安営の荷物を運搬するトラックドライバーはこれを否定し、彼らは小麦グルテンを製造する工場を持っていると語った[45]。農務省とFDAの職員は徐州安営が小麦グルテンに食品でないことを示すラベルを貼り、第三者を通して蘇州市富田紡績品有限公司へ送ったと信じている。食品でないことを示す表示はグルテンが検査を行うことなく輸出される場合に許可されている。しかし、蘇州市富田紡績品有限公司のスポークスマンは会社が小麦グルテンを輸出したことを否定した[35]。
徐州安営は食品の原材料の供給者でありながら、過去に膨大な量のメラミンを持っていることが発見された証拠がある。ニューヨーク・タイムズは2007年3月29日、徐州安営の代表者が「我々の会社が膨大な量のメラミンくずを購入した」と産業物資の取引の掲示板に書き込んだと報告した。メラミンは小麦グルテンのタンパク質を含むことを明示し、商品価値を高めるためにを加えられたのかもしれない。しかし、小麦グルテンの輸入業者であるケムニュートラ社は彼らが徐州安営から不純物や汚染物質を含んでいないことを示す分析結果を受け取ったことに不満を述べている[45]。徐州安営が小麦グルテン以外の製品を北米に輸出したのかどうかはまだ分かっていない[1]。
中国でメラミン汚染食品原料の新たな供給者が現れた。2006年の7月から濱州富田生物科学技術有限公司は輸入業者のウィルバー・エリス社と契約していた[46]。濱州富田は大豆やトウモロコシなどのタンパク質を米国やヨーロッパ、東南アジアに供給していた[35]。濱州富田は濃縮コメタンパク質を普通白い袋に入れて輸出していたが、4月11日、ピンクの袋が見つかり、その袋にはステンシルで「メラミン」と書かれていた。濱州富田はウィルバー・エリス社に対し、「袋が破れてしまい、ラベルを付け間違えてしまった。だから新しい袋を使った」と説明した[46]。会社は食品を供給し、原料を与えただけだった[47]。
FDAの動物薬センターの責任者であるスティーブン・サンドロフは中国から輸出されたメラミン入りの小麦グルテン、濃縮コメタンパク質とトウモロコシグルテンは意図的汚染説の支柱になっているとし、「これは我々が中国の工場を訪れた結果達したある仮説である」と彼は語った[20]。
4月29日と4月30日、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンとニューヨーク・タイムズは中国の家畜飼料生産者がメラミンくずを何年にもわたって飼料に混入してきたことを認めたと報じた。メラミンを製造する福建省三明鼎輝化工有限公司の経営者であるJi Denghuiは「多くの会社が動物や魚の飼料としてメラミンくずを購入している。もし規制があったらどうなるか私には分からない。たぶんないんだろう。それをしてはならないと法律や規制はない。だからみんなそれをしているのだ。中国の法律とはそのようなものだ。もし事件が起こらなかったら何も規制されることはないのだ」と語った。石炭からメラミンを作り、メラミンからプラスチックや肥料を作り、メラミンくずをそのように使うと書かれ、広くそう思われている。メラミンは見た目のタンパク質含有量を増やし、尿素のような他のありふれたそして違法な材料の検査を回避するために使われてきたといわれている[48][5]。
5月2日、農務省とFDAの職員は誰が汚染食品を製造し、どこで汚染が起こったのかまだ分からないと述べた。中国政府は徐州安営を例に取り上げ、他の25の製造者から製品を購入していたことを明らかにした[35]。
2007年5月8日、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンが伝えた中国の化学メーカー三社の証言によると、しばしば家畜飼料生産者達が、飼料に混入しタンパク質含有量を高く見せかける目的で、シアヌル酸等の化学物質を彼らの工場から買い付けたり或いは問い合わせをしていたという。これは、メラミンとシアヌル酸がタンパク質製品の中で反応する可能性があるという更なる危険性を示唆するものである[3]。
また同日、植物性タンパク質の汚染に加え偽装表示が為されていたことが、FDAの職員により明らかとなった。小麦グルテンやコメタンパク質の濃縮物とされていたものは、実際はいずれもはるかに安価な小麦粉であった(小麦粉は小麦グルテン抽出の母原料である)。抽出タンパク質製品と同等の品質検査結果を得るために小麦粉に加える必要があったのが、(メラミンやシアヌル酸という)窒素に富んだ化合物というわけだ[4]。
中国は動物保護に熱心ではなく、ペットの虐待を防ぐ法律は何もなかった。例えば、狂犬病の流行を防ぐ際、ワクチンを接種して予防するのではなく、ペットを淘汰することを政策として決定していた[49]。狂犬病の犬の淘汰は4歳の女の子を含む3人の人間によって行われた。飼い主が見守る中、道端で犬はこん棒で殴られ、死んでしまった[50]。
[編集] 合法的な非タンパク性窒素と違法な飼料への添加
反芻動物は自らの腸内のバクテリアによる発酵によっていくつかの非タンパク性窒素(NPN)を得る。NPNは反芻動物のタンパク質を補う[51]。猫や犬、豚(そして人間)のような非反芻動物はNPNを得ることができない。NPNは反芻動物に尿素やリン酸アンモニウムやビウレットをもたらす[52]。たまに重合化された尿素樹脂か尿素とホルムアルデヒドの混合体は(ともにホルムアルデヒド処理された尿素として知られる)は尿素の代用として利用される。前者は窒素の排出のよい制御をもたらすからである。 この実験は中国やフィンランド[53]、インド[54]、フランス[55] などの国で行われた。
シアヌル酸はNPNとして利用される。例えば、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社が製造する牛のNPNサプリメントにはビウレット、トリウレット、シアヌル酸や尿素が含まれている[56]。FDAは飼料や飲料水の中に一定の量のシアヌル酸が含まれていることを認めている[57]。
メラミンは1958年から特許として認可され、牛用のNPNとして利用されてきたとされている[58]。しかし、1978年メラミンは反芻動物のNPNとしてはふさわしくない可能性があると結論付けられた。なぜなら綿実粕や尿素のような他のNPNと比べ牛の腸内で加水分解されるのが遅く、また不完全であるからである[59]。
中国では尿素樹脂を非反芻動物の飼料に混入することは普通に行われていた[60][61]。中国国内では婉曲的に「蛋白精」と名付けられて売られており、「新しいタンパク性窒素の飼料添加物の一種」と書かれていた[62]。しかし、少なくとも国連の食糧農業機関の報告では尿素樹脂を一部の非反芻動物に与えることは適切であると提案されており、飼料の結合剤として水産養殖に利用することも提案されていた[63]。
少なくとも既に2005年にはそれほど値段の高くないNPNを含んだ濃縮コメタンパク質が非反芻動物用の飼料として市場に出回っていたという報告がある。江陰市和泰物貿有限公司のホームページでは、他の匿名の供給者によって低価格で市販されている「コメタンパク質の偽物」から、等電点分析により汚染物質が検出されたと警告した[64]。その報告でいう汚染物質がメラミンなのか他のNPNなのか、その時汚染された濃縮コメタンパク質が食品に利用されていたのかは明らかにされていない。
4月18日、アリババ・ドット・コムで徐州安営の名前で販売されていた「Esb protein powder」の広告が掲載された[65][66]。その製品は天然のタンパク質を含み家畜の飼料として最適とされていた。しかし、その製品はクレームこそつけられていなかったが、実は質の悪いタンパク質を160~300%含んでいた。またその広告では非タンパク性窒素の略語である「NPN」を使用し、それに似た広告は他のウェブサイトで早ければ2005年の10月31日には掲載されていた[67]。山東濱州新鵬生物科技有限公司の「EM bacterium active protein forage」[68]や山東済南生物科技有限公司の「HP protein powder」[69] など製品は似たような名前をつけられていた。